2008/07/09

犬の捻挫

Sprain of dog

 I cannot move.

軽く捻った?

土の上に、さらっと細かい砂利が積もった公園の道で、お友達犬のKちゃんと遊んでたら、脚を砂利にとられたらしい。
いつものように、体を右に左にジャンプして、Kちゃんを遊びに誘い込んでいたのだが、Kちゃんはそっぽを向いて知らん顔。
今日のリリーはえらく動きが大きいなあ、と思っていたら、どこかで甲高い笛の音が聞こえた。
その「ピーッ」という笛の音とともにリリーが座り込んで動かない。



近くで笛の好きな人が、笛を吹いて遊んでいるのだな、と私は思った。
私は笛吹きを探して公園の森の奥の方をキョロキョロしたりしたが、Kちゃんの飼い主はじっとリリーを見ている。

「左の後ろ足をちょっとねじったみたいですよ。こういうところで犬が足を痛めるのはよくあることなんですよ。Kも前に足を痛めたことがあってね。」

え、じゃ今の笛のような音はリリーの悲鳴だったのか。

リリーのそばに寄ってみると、不安そうな目をしてハアハア息を吐いている。

それにしても、Kちゃんの飼い主は年は若いのだが、よく見ているもんだ。
Kちゃんとリリーの動きを注意深く見てないと気がつかないことだ。
愛情の違いと、ワンちゃんと接している年季の違いかな。

現実に対する見方が違うのだね。
たぶん彼はストレートな目で事実を見つめるタイプなんだろう。
以前から、ちょっとそんな気がしていたのだ。
彼は、原因と結果の連動に、いち早く反応できる人なんだね。

私は、リリーの散歩のときは、いつもぼんやりしているから、現実がちょっと遅れてやってくる。
幻の笛吹きが徐々に消えて、リリーの悲鳴が、次第にリリーという存在と現実的な一体感を持ち始める。
でも、森の奥の笛吹きのことも、ちょっとまだ考えている。

だって意外なのだ、犬が捻挫するなんて。

犬の捻挫よりも、笛が好きなヒトの方が現実的だと思うからね。
だが、実際リリーは捻挫したのだ。
そして、あの笛のような音は、リリーが突然の激痛に発した悲鳴なのだ。
リリーは、座り込むというよりは、寝そべった格好のまま動かない。

「じゃ、Kに先導させましょう」
年若い賢者はそう言って、家の方角目指して歩き出した。
もちろん、彼のワンちゃんもそれに従って歩きだす。

リリーは重い体を起こして、左の後ろ足を浮かすように歩いて、Kちゃんの後を追う。
Kちゃんは、ときどき後ろを振り返りながら、リリーを先導している。

私はこの行列(それは賢者の序列)の一番最後をひょこひょこついて帰った。



  I do not regret.

家に辿り着いて、ブロックにあご枕して、痛みが遠のくのをジッと待っているリリー。
反省とか、後悔とか、失敗したとかは、リリーには無い。
足の痛みと、それが徐々に退いて行く(たぶん)という現実を感じているだけ。