リリーはちょっとした人気者らしい。
顔が可愛いとか、毛がきれいだとか、おとなしくて素直な性格だとか、リリーの犬小屋に立ち寄る近所の人たちは、そんなことを言いながら、リリーに触る。
リリーはすまし顔で、盛んに尾を振ってそれに応えている。
リリーの尾の振り方も、見物だ。
長い尾をすごいスピードで振り回す。
側に太鼓でも置いたら、リリーの尾の先に叩かれて、ドンドンお祭り太鼓になってしまうだろう。
夜になっても、リリーは駐車場の最前線にいて、通行人に尾を振り続ける。
饗応犬の悲しい性か、写真のリリーの顔は愁いを含んでいる。
子犬はちやほやされがちだ。
リリーの図体はどんどん大きくなっている。
成犬になっても、今の可愛さを維持できるのか。
そんな想いがあるのか無いのか、リリーは自身の世界に引きこもり、夜の底に沈み込もうとしているかのように見える。
もう手をのべても反応しない。
長いまつげを伏せて、うつむいたままだ。
