2007/10/09

犬の街

ここは犬の街だ。

秋になってから、夜、犬の鳴き声があちこちで上がるようになった。

それにつられて、リリーも声を上げる。

遠い鳴き声、近い鳴き声、町内の犬が一斉に声を上げているようだ。

この付近は。犬を連れて散歩している人が実に多い。

町角からあらわれ、町角に消えて行く、見慣れた、あるいは見慣れない人と犬の影。

夕暮れにぐるりを見渡せば、人と犬のシルエットが見え隠れする。

突風のようにあらわれて、リリーの体に触れ、何事かささやき、去って行く人と犬の影。
映画の早回しのように、風とともに次々とあらわれ、去って行く人と犬。

人の顔が犬になり、犬の顔が人になる。
軽いめまい。
ああ、これはリリーの夢なのだな。
リリーの夢の中に引き込まれてしまったのだ。
 
夕暮れの街角、リリーはおすわりして、じっと犬の影を待っている。