ここは犬の街だ。
秋になってから、夜、犬の鳴き声があちこちで上がるようになった。
それにつられて、リリーも声を上げる。
遠い鳴き声、近い鳴き声、町内の犬が一斉に声を上げているようだ。
この付近は。犬を連れて散歩している人が実に多い。
町角からあらわれ、町角に消えて行く、見慣れた、あるいは見慣れない人と犬の影。
夕暮れにぐるりを見渡せば、人と犬のシルエットが見え隠れする。
突風のようにあらわれて、リリーの体に触れ、何事かささやき、去って行く人と犬の影。
映画の早回しのように、風とともに次々とあらわれ、去って行く人と犬。
人の顔が犬になり、犬の顔が人になる。
軽いめまい。
ああ、これはリリーの夢なのだな。
リリーの夢の中に引き込まれてしまったのだ。
夕暮れの街角、リリーはおすわりして、じっと犬の影を待っている。