退屈なリリー。 |
リリーの強敵は、いまのところ、空腹では無くて睡魔らしい。
あれよあれよという間に、眠ってしまう。
リリー自身も抗い難いというのがよくわかる。
半目を開けていても、体が動かない。
薬でももられたみたいに動かない。
名前を呼んでも、軽くゆすっても、応答無し。
それ以上の、たとえば、叩くとか強く揺さぶるとか、大声で「リリー起きろ!」とか、そんなことは試したことはない。
家の者も、やれやれなのだから。
居間に平穏が訪れる。
ゆっくりテレビが見れる。
ゆっくり食事ができる。
隣近所にも平穏が訪れる。
リリーのうるさい吠え声もなく、それを叱る怒鳴り声もない。
眠くなったリリー。 |
それが、「ワンワン」よりもヒトのうなり声に近い。
しばらくうなってから、突然、のそっと起きて寝場所を替える。
あくびとも、ため息とも、寝息とも言えない音が、リリーの口からもれる。
睡魔が水のようにゆっくりと、リリーの体に滲みていく。
リリーは眠りの底なし沼に潜水下降する静かな獣だ。
飼い犬のリリーが眠るとき、潜水下降する静かな獣が目を開ける。
決して浮上しない水面を眺めているのだ。
完璧に眠ってしまった。 |