リリーと呼んで、振り向いたところを撮ったら、目をつぶっている写真になった。
シャッターを切ると同時に、リリーがまばたきしたのだろう。
そういえば、亡くなった私の母の写真に、目をつぶったものが多い。
写真撮影のとき、いつも目をつぶっていたという訳ではないだろう。
もしそうだとしたら、撮影者に注意されていたはずだ。
母のまばたきと同時に、シャッターを切られることが多かったのだろうが、偶然にしてはあまりに多すぎた。
おそらく、撮影のとき、母は必要以上にまばたきを繰り返したのだと思う。
目をつぶった写真を撮られたくなくて、一心に目を開けた。
まばたきとは、母にとって目を開けるための行為だった。
だが、目を開けるために、繰り返し目を閉じた瞬間の写真が、結果的に多くなってしまったのだ。
タイミングの悪さは遺伝するのかもしれない。
散歩の途中、他人の家の庭先に駆け込んでリリーがウンチする。
それを、その家の者が睨み眼で見ていたりする。
強面で、かなりの犬嫌いであることは雰囲気でわかる。
冷や汗もので、巨大なウンチの始末をしながら、
「ああ、なんてタイミングの悪い」と唸るしかない。
犬のように四つん這いになってウンチを片付ける。
強面の偉そうなオヤジは
「間抜けな犬が二匹、俺の邸宅の庭を汚しやがって!」とでも思っていそうな顔をしている。
人なつっこいリリーが、そのオヤジに尾を振って愛想を振りまく。
長い舌をだらりと垂らしてオヤジを見つめ、「エヘエヘ」している。
尾の先に付いてしまったウンチのかけらが右に左に、楽しそうに揺れている。