犬の横顔の向こうで少年野球。 |
この地方は、相変わらず気温の低い夏が続いている。
リリーには快適かもしれないが、作物が育たないので農家は大変だ。
小学校のグランドの横の公園を通ったら、グランドで少年野球の試合の真っ最中だった。
観客は、小さな選手の親たちと、私のような通行人。
少ない観客には、もったいないくらいの少年野球の白熱ぶりだ。
投げる、打つ、走る、全ての行為に少年たちの緊張感がみなぎっている。
一方リリーは、はじめのうちは行儀良くオスワリしていたが、やがて、ソワソワウロウロ、私のそばでとぐろを巻き始めた。
公園で子供たちがはしゃぎ回る声には、興奮して吠えるのだが、少年野球の歓声には、ただ落ち着かない素振りを見せるだけ。
少年たちの真剣なかけ声に臆しているのかも知れない。
グランドから生ずる一生懸命な熱気に、りりーは威圧感を感じているのだろうか。
グランドから押し寄せる圧倒的な緊張感が、リリーには初めての体験だから驚いているに違いない。
リリーが散歩の続行を促しているので、私たちは、また歩き始めた。
背後では、少年野球の声援が鳴り止まない。
リリーは後ろを振り返り振り返り、歩いている。
りりーにとって、あんなに一生懸命なヒトの群れを見たのは初めてで、驚いたのだろう。
私にとっても、真剣で初々しい心の動きに触れるのは久しぶりである。
何か、少年野球に癒された感じがする。
犬と少年野球の接点は、リリーには驚きなのだろうが、私には癒しだ。
初々しさにおいては、リリーも少年達と引けをとらない。
リリーも毎日を一生懸命生きているのだ。
少年達の感性は、様々な色合いに染まっていくのだろうが、リリーの初々しさは変わることが無いだろう。
犬と少年野球、年老いても初々しさにとどまる者と、初々しさから遠ざかっていく者と・・・。
私たちは犬の姿に少年の初々しさを見いだして、癒されているのかも知れない。