2012/05/14

夕暮れに愁顔の犬

西日の射し込む部屋で。
この頃、夕暮れになると、リリーは小屋の中に入って、斜め向かいの公園の方をぼんやりと眺めている事が多い。

小さな腰掛けに顎をのせ、きちんと揃えた両手は、行儀よく腰掛けの下に置いてある。

公園からは、子ども達の楽しそうな笑い声が聞こえる。

公園の緑の芝生の上で遊びに夢中な子ども達。

リリーは、その様子を静かに眺めている。

腰掛けの上に、お気に入りの玩具のクマちゃんをのせて、クマちゃんをじっと見たり、公園の子ども達の方へ目を移したり。


シャッターを押すと目を閉じる犬。
私がカメラを向けて、名前を呼ぶと、リリーはカメラの方へ顔を向けた。
シャッターを押すタイミングと、犬の瞬きのタイミングが合ってしまう。
犬はあんまり瞬きしないのに、リリーの写真は目を閉じた瞬間のものが多い。

子ども達の楽しそうな笑い声が、西日が射し込む鎖された小屋の中では、寂しく響くように感じる。
クサリに繋がれたリリーは、そんな感傷に浸っているような愁顔だ。

この部屋は動かない玩具同様虚しい、とでも思っているような横顔。
生き物ではない玩具なんか、友達ではない。
公園で遊ぶ可愛い子ども達と友達になりたい。
一緒に遊びたい。

犬の生きがいは遊ぶことだから、クサリに繋がれて、自由に遊べない犬なんて犬じゃない。

動かない玩具のクマちゃんと同じ身の上ね。
夕暮れに愁顔の犬が、大きな溜め息をつく。


西日を浴びて愁顔の犬。